零章 始まり 03

 

『結局、生むだけ損だったのでは…?』

 瞬くまに、部屋に静寂が訪れる。
『っ。何言ってっ』
 ラルとルイが叫ぶも、
『そうですね。もう話すことはありませんよね。僕は席を外させて頂きます。』
 リトが静かに、けれど威厳のある声で告げる。しかし、その静かな重圧を感じ取れたのは、数少ない実力者だけだった。
 その言葉を
 言ってしまった重さ
 聞いてしまった重さ
 そして、リトの重圧

 えたいのしれない沈黙の中。
 リトは、部屋を出ていった。

『待って兄さん。』
『リトっ。ルイっ。』
 姉弟たちが飛び出して行くなか、大人達は、動くことすらできなかった。

 

『兄さんっ。なんで。』
 ラルとルイがリトを追い掛け、やっとのことで追い付いた。二人に疲労がみえる。にも関わらず、リトは、
『なんでって、なにが?』
 息一つ乱さず、静かにそこに佇んでいた。
『あんなこと。あんな奴の言うこと、気にすることない』
『気になんてしてないよ?』
『嘘だ…嘘だ嘘だ!兄さんはあんなこと言われて、それから逃げてるだけだ!次期後継者だろ!狩羽一族の長になるんだろ!そんなことで…』

パァァァァン

『煩い。父さんも含めて、アイツらが期待をかけるのは、ルイだ。僕は関係ない』
 リトにしては、冷たい言葉でそう言い放った。
『なんだよっ。そんな奴だったのかよ。信頼してたのに…もういい、兄さんなんて、いつまでも逃げてればいいっ。』
 ルイにしては、錯乱した口調で叫ぶと、自分の部屋へ走っていった。
『リト…何を考えているの?貴方らしくもないわ。』
 ラルはルイの後を追い掛け、いつの間にか暗くなった周囲に、溶けていった。
『ゴメン…ルイ…姉さん…』
 リトは一人で涙した。

 その次の日…リトはいなかった。
 誰にも告げることなく。
 それは姉弟にも…
 たった一匹、信頼するルビィを連れて…

そして今に至る。

あの後、家がどうなったかは知らない。

『僕は一人で、いやルビィと共に、縛られない幸せを手に入れるんだ。』
一人呟くリトを祝福するように、夜空に星が流れた。

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ルゥーカス
戻らない時の流れ

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©Sanori Inoue 2008