零章 始まり 02
Side.Rito
「やはり、ルイ君の方が後継者にふさわしいのでは?」
分かってる……。
「リト君は、修行でも、ミスが目立ちますしねぇ。」
解ってる!
「しかし、長男が家を継ぐのは、当然のこと。ここは、リトで我慢するべきです。」
うるさい!
父さん達は、ルイの方が良いんだろ!
じゃあルイにすればいいじゃないか!
僕なんて、僕なんて!
「う…あっ…」
目を開けたら、満天の夜空が広がっていて。どうしてこんなところにと、リトは考える。
(ああ、家出したんだ僕…)
ふぅと、体を起こす。草原で寝ていたせいか、体が痛い。
(ああ、これからどうすれば…)
その辺りを考えず、飛び出してくるのは、リトらしいといえばらしい。
(でも、これで、僕は自由なんだ。プレッシャーとか、次期後継者とか、そんなものに怯えることもないんだ。ねぇ、ルビィ…これから二人で、〔一人と一匹だが〕頑張ろうね。)
前向きなのも、彼らしいのだが。
(ああでも、これからどうしよう。財布とかは持ってきたし、町に行って、宿とか借りて、えーとえーと。)
慌てふためくのも、彼らしい。
後継者とすると、少しばかり心配だが、リトは家を出ているので、このような発想も、自由なのだ。家にいた頃は、このような考えを表に出そうものなら、父親の平手打ちがとんできたものだ。そう考えると、リトも身が軽くなった気がする。リトへのプレッシャーも、かなりのものだったに違いない。そのプレッシャーのせいもあり、彼は家を出た。
だがしかし、いくらリトでも、プレッシャーだけで家を出たわけではない。
あの一言は、彼の心を大きくえぐった。
全ては、二日程前の、あの事件がきっかけだった。リトとルイ。どちらが次期後継者にふさわしいか。それを決める会議が行われた。
本当なら、行われることはないはずの会議が。
もちろん、リトとルイも出席し、彼らの姉であるラルも、この会議に参加していた。
しかし、それは会議とは到底言えたものではなく、リトに対する罵倒の様なものだった。
リトがふさわしいと主張する者は、ラルやルイを含め、ごくわずかの、リトの本当の力を知る者だけで、リト達の父親ですら、ルイがふさわしいと主張していた。
『リト君は、戦うにはちょっと力不足なのでは?』
『それに比べ、ルイ君は攻撃も防御も、しっかりしてますからね。』
リトはこの罵倒にひたすら堪えだけだった。横で、ラルとルイが強く拳を握り締め、怒りの表情をうかべているにも関わらず、リトは冷静だった。
もともと、リトは人前で本気を出して戦うことがないため、周囲の大人からしてみれば、〔次期当主として弱い〕のだ。一方ルイは、普段から本気を出して戦うため、〔リトに比べれば、強い〕というイメージがある
しかし、実際にはルイよりもリトの方が強い。
ルイは、一度町で盗賊団にからまれたことがあった。いくらルイでも、多勢に無勢で、殺されそうになったところを、リトが一人で助けに来たのだ。ルイがかなわなかった、盗賊団連中を、無傷で叩き潰した。
ルイが殺されそうになった奴らをだ。
この出来事は、リトの頼みで、彼らの他には、ラルしか知らない事だった。
この事件の事や、リトが、間違って本気になってしまったところ、ルイに大怪我を負わしてしまいかねなかったりと、その片鱗を見せている。リトの方が確実に強いのは、火を見るよりあきらかだった。
兄弟たちは、リトを後継者にしようと悪戦苦闘するなか、この事件は起こった。