壱章 01
Side.Lutoka
ルトカはその街に到着した。
そして、少し見回しただけで異様な熱気に街が包まれていることを知る。暑いのではない。人々の動きにやけに力がこもっているのだ。明るい空気が街全体に満ちているそれは、ルトカも何度か経験したことがあった。
「祭……かしら」
人の流れを辿ってみると、予想通りそれは中央広場を中心としていた。見ていると同じ人物が行ったり来たりしているあたり、準備段階のようだ。
とりあえず確認のため、入り口に近い場所で出店を出そうとしているらしい男に声をかけて訊ねてみる。
「お仕事中すみません」
「あーい何の用だね……こりゃ、見ない顔だねぇ。旅人さん?」
「ええ、つい先程この街に着きまして。お訊きしてもよろしいですか
?」
「あいあい、何かいな」
「ここで、祭が行われるのですか?」
その言葉を聞くと、待ってましたとばかりに男が胸を張る。
「そうさね。旅人さん、タイミングが良いやな。ちょーうど、あと二、三時間で始まりまっせ。是非うちの店にいらっしゃいな。あ、焼き鳥でっせ、特注のもの凄い上手え鶏ぃ仕入れとるよ」
「お招きありがとうございます」
商売口調になる男へ、ルトカは苦笑しつつそう返す。そして、祭ならば一番聞きたかった質問を口にする。
「ところで、祭られる神は何ですか?」
「は?」
「この街で祀っている神です。どんな神ですか?」
「いやあ……悪いけど知らんさね。そんなもの関係なぁことだもんでぇな」
「そうですか」
後は簡単に礼を言い、ルトカはそこを立ち去った。正直言って内心落胆していた。祭というと張り切るのに、肝心なことを知らない人がこの頃多すぎるのだ。一体、祭りを何だと思っているのだろう。
(町興しの一環……だろうな)
自分で自分の出した答えに嘆息しながら、ルトカは道を歩く。嬉々として店の準備をするこの大勢の中で、祭りの何たるかを気にかける者が何人いるだろう。そんなに多くはないだろう。今のご時勢じゃあ、半分いたら奇跡的だ。
ルトカとしては、参加者全員が知っていて当然であってほしい。