スラッシュ☆モンスター
第T部@

・☆ 13.ビーニーズ

「そうね……」
 ソイルも考え込む。
「じゃあ、皆を呼んで、考えましょう」
 そして、棚に置いてあった、透明の玉を持ってきた。
 あれ?
「ねえ、あれって……」
 僕がこっそりルルに耳打ちすると、ルルも頷く。
「ウィンドに貰った……」
 するとソイルも、ああ、と頷いたんだ!
「これらの玉は、皆持っていますよ、透明のものだけ。何故か、青、赤、白、黒、黄色のものだけ一つずつしかなく、故郷を旅立つときにウィンドに託したのです」
 そうなんだ。
「でも、そんな大事なもの、僕らに渡してよかったのかなあ」
「いいのです。ウィンドがそう判断したのならば」
 そしてまた微笑む。ウィンドを信頼して浮かべたような、やわらかな笑み。
 む。僕の直感がひらめく。きっと、ソイルはウィンドのことが好きだな。つまり、ファイアは、――ふられる。
 プッ。
 思わず吹き出して、
「どうしたの?」
 ルルに怪訝そうな顔をされちゃった。
「あ、な、なんでもないよっ」
 あはは、と笑う。そこでソイルがまた話し始めたから、そっちに耳を傾ける。
「これらの玉は、(わたくし)達が望むとおりのことをしてくれるそうです、何事にも限度はありますけれど」
 そして、息を吸い込む。玉に向かって、しゃべりはじめた!
「ウィンド。ウォーター。サンダー。リーフ。ファイア」
 ボンボンボンボン!!
 立て続けの、ば、
 爆発音!?
「うわあ〜〜!!」
「きゃあ〜〜!!」
「どひぇ〜〜!!」
「うっああっ!?」
 僕ら、悲鳴をあげて、
「何驚いてるの? ウィンドだよ、ウィンド」
 聞き憶えのある、あののんびりとした声!
「ウィンド!」
「だから、ウィンドだって言ってるじゃないか。ま、いいけどね」
 にっこり笑う、彼はウィンド!
「お久しぶりです、ソイルさん」
「こちらこそ、サンダーさん」
 落ち着いた気品のある声サンダー! 彼女はソイルと挨拶を交わしてから、こちらに向きなおった。
「こんにちは、みなさん」
「こんにちは!」
「おいおい、オレのことも忘れんなよ! せっかく南中央海(サウス・セントラル・スィー)をほっぽいて来てやったんだから!」
「ウォーターさん、そんな言い方、なさらないで下さいな?」
 サンダーが困ったように言った相手は、そう、ウォーター!
「ごめんごめん。驚いちゃって」
 僕が言うと、
「このかたがたが、ウィンドさん、サンダーさん、ウォーターさん?」
 レイユウが訊いた。
「おうよ」
 答えてウォーターは胸を張った。
「お前がレイユウか?」
「はい。プラント族γ氏の、レイユウです。お見知りおきを」
 頭を下げるレイユウ。そこに、
「ハローッ! 元気だったか? 今日は、勝負の申し込みかい?」
「違うよ!」
 勢いよくやってきたリーフに反論したのは、ラウフ。でも、リーフはラウフを無視。レイユウに向いて、
「よお。お前がレイユウか。そうとうおぼっちゃんとお見受けするけど、どうかい?」
「その通りです」
 レイユウが頭を下げる。えっ? レイユウって、『おぼっちゃん』!?
「貴女が、リーフさんですね」
「ああ。よろしくな、レイユウぼっちゃん」
 握手を求めるリーフ。レイユウは少し不満そうに、
「そういう呼び方はやめてもらえませんかね」
「ああ、悪かった」
 リーフはあっさりと手を引いた。ちょっと拍子抜けしちゃった。
「あとは……ファイアだけ……ね」
 ルルが言った時、彼女の耳がピクリと震えた。僕の耳にも音が届く。
 何か、来る!
「――――ソお〜〜イルちゅわあ〜〜〜〜〜ん!!!」
 疾風のように飛び込んできた――ファイア!
「ファイア!」
 大声をあげる僕らを無視して、ファイアはソイルに駆け寄った。
「ソイルちゃん、会いに来たよ!」
 会いに……? いやむしろ愛に……。
「えっ、ええ……」
 さすがのソイルも、ちょっと戸惑い気味。そのソイルの手をグッと握って、
「僕達の恋をっ、ジャマしないでねっっ!!」
 いや〜、ジャマするなって言われてもねえ……。
「違いますよ、ファイアさん」
 レイユウが静かに言った。えっ、と(ほう)けるファイア。続けてソイルも言う。
「今日皆を呼んだのは、話し合いのためなの。(わたくし)達の――こい――のためではないのです」
 それを聞いたファイアは、がっくりと肩を落とした。今のは、ファイアが悪いと思う。早とちり!
 ……あれ?
 僕がふと見ると、ウィンドが……なんか、悲しそうな顔をしていた。僕の視線に気付いてにっこり笑い返してきたけれど、どうしたんだろう……。
 今の僕には分からなかった。
「で、どんな話し合いだい? ソイル」
 リーフが壁に寄りかかりながら訊ねると、ソイルの代わりにレイユウが答えた。
「『しゃべる動物』改め」
 それで皆納得したみたい。
「誰か、案のあるヒト!」
 ルルが司会をすると、ハイ! とリーフが真っ先に、
「スラッシュ・バトル!」
「メイト・メイト、ってどうだ?」
 ウォーターが言うと、サンダーも頷く。
(わたくし)は、ウォーターさんに賛成ですわ」
「ねえ、もっといいのがあるよ」
 そこで、ファイアが口を開いた。
 え、嫌な予感……。
「それはね……」
「…………」
「――ソイルちゃん・ラブ!」
 はあぁ〜〜〜!?
 全っ然、「もっといいの」じゃないじゃん!
「駄目!」
「何じゃそりゃ!」
「バカじゃねえの?」
「却下!」
「キモチワリー」
「何故(わたくし)?」
 皆がいっせいに、ファイアへ抗議! 当然だよね!
「ごめんなさい、ゆるしてえ〜〜!!」
 ファイアが泣いて謝る。ソイルちゃん・ラブなんかにならなくて、よかった。僕、こっそり安堵する。
「あのさ……」
 それまで何も言わずに口を閉じていたウィンドが言った!
「何?」
 ルルが訊いてみる。
「『ビーニーズ』、っていうの、どうかな?」
 し〜ん。皆、静まり返る。
「……駄目、でしょうか……?」
 かっくりと肩を落としかけたウィンド。それを見て最初に声をあげたのは、レイユウ!
「いいえ! とっても……とっても、いいと思います!」
「少し、感動してしまったのです」
 サンダーが胸に手を当てた。
「何か、懐かしいような響き……」
「オレ達の故郷の名前さ!」
 ウォーターが胸を張る。
「オレ達の故郷は、ビーニー村だからな!」
 リーフも。
「最高だよ!」
「スッと馴染むね!」
「素敵です!」
 ラウフのあとに、ルルとソイルが声を合わせて。
「決まりだねっ?」
 僕が確認すると、
「オウッ!」
 というわけで、『しゃべる動物』改め、『ビーニーズ』と決まったのだった。
 ただ、
「ソイルちゃん・ラブ〜」
 ファイアだけが、ぐずっていたけどね。

←BACK INDEX NEXT→