スラッシュ☆モンスター
第T部@

・☆ 8.リーフは好戦的!?

 ウォーターに出会い、南中央(サウス・セントラル)をあとにした僕らが次に向かったのは、中央山(セントラル・マウンテン)中央市(セントラル・シティ)に最も近い山だからそう名づけられた、有名な山なんだ。僕らは、そこに行くんだ!
 中央市(セントラル・シティ)から南中央(サウス・セントラル)海岸に行く時は三十分かかった。南中央(サウス・セントラル)海岸から中央山(セントラル・マウンテン)までは、さて、走って何分かかるでしょう?
 答えは……十五分! 海へよりも、短かったね。
 だから、ちょっとぐらい出るのが遅くなっても、大丈夫だったんだ。
 走って走って、中央山(セントラル・マウンテン)に到着!
「うわあ〜〜〜!」
 僕らは中央山(セントラル・マウンテン)を見上げて、歓声をあげた。
 中央山(セントラル・マウンテン)は、中央市(セントラル・シティ)から最も近い山だけど、この世界に存在する山の中では、小さいほう。でも、近いだけあって、中央中等学所からは、よく見えた。近くから見ると、意外と高いんだ!
「よし! 登ろう!」
 草やら枝やらが突き出して、道になってない道に、僕らは思い切って飛び込んだ!
 僕らを邪魔するように突き出した枝が、頭とか耳、体に当たって、もう痛い痛い! けれど、僕らは止まらない。ここまで来たんだもん。止まるわけには、いかないよね! 目をつむって、僕らは進んだ。
 やっと抵抗がなくなって、僕らは立ち止まった。体を見ると、葉っぱとか、枝にやられた擦り傷だらけ。傷は、赤くなって、じんじんうずいている。
「痛いよう……」
 ラウフがぽつっとつぶやいた。それは僕だって同じだい!
 とその時!
「破ァ〜〜〜〜〜!!」
 誰かの気合いの入った声が聞こえて、僕らは飛び上がった!
 よく見ると、僕らが止まったその場所は、開けた広場みたいになっていた。円い広場の中央を中心として、白墨(チョーク)で円が描かれている。そこで、イヌとイヌが戦っていたんだ!
 片方は男の子。もう片方は、女の子。女の子のほうが優勢なのは、明らかだ! 男の子はボロボロ。でも、重い体を引きずって、女の子に立ち向かっていく!
 けれど、やっぱり限度はあるんだね。
「チャ!」
 という掛け声と共に決め手のキックが放たれ、男の子は吹っ飛んだ! 円の外にはじき出され、ドスッと地面に倒れた。
「もっと力をつけてから、また来いよ。今度はもっと手ごたえのあるのを期待してるぜ」
 女の子がそういうと、くそっと悪態をつきながら、男の子は山を降りていった。途中で一度転んだけどね。
 そこで、彼女は僕らに気付いた。
「ん? お前達、誰?」
 ちょこん、と首をかしげる様子は、すごく可愛いんだけど……
「……新たな挑戦者? うけてたつぜ」
 ニヤリと笑い、フフッと強気で言う女の子。……なんの挑戦者?
「違うよ!」
 ラウフがぐっとこぶしを握って叫ぶ。
「僕たちは、リーフ、っていうヒトを探してこの山に来たんだ!」
「リーフというかたについて、何かご存知ありませんか?」
 ルルが丁寧に訊きなおすと、女の子は、
「なーんだ」
 と拍子抜けした風に肩を落とした。そして胸を張って、
「なら、簡単だ。オレが、リーフだ!」
 そう言ったんだ!
「えっ」
 このヒトが、リーフ!?
「それより、お前達は何者だ。ちゃんと名乗ってから相手に尋ねるのが礼儀だぜ」
 それもそうだ。
「私は、チョル族α氏のキルルと申します」
「僕は、ショル族α氏、レナルです」
「そして僕が、ムチ族β氏のラウフだよ!」
「へえ〜」
 リーフは、初めて知った、という顔をして、相槌を打った。しゃべる動物の誰かから、僕らのこと、聞いてないのかな。
 と、リーフは突然言った。
「ところでさー、バトルしない?」
 へ?
「最近さー、リベンジャーばっかりで、てごたえないんだよなー。新しい刺激が欲しい、ってゆーかー、未知の奴ともやりあいたいってゆーのかなー」
 ふあー、リーフって、好戦的なんだなー。
「ねっ、やろうぜ、なっ、なっ?」
 しかも、女の子のくせにしゃべり方はまるで男の子だ。
「どうする?」
「まあ……いいんじゃない?」
 僕ら、顔を寄せて話し合う。
「最近、バトルとかやってないし」
「たまには自分の最高の実力を出さないと、なまっちゃうもんね」
 僕らはリーフのほうを向いた。
「いいよ。その代わり、手加減なしね」
「うおっし、やあ!」
 ぐっとこぶしを握って、リーフが喜ぶ。
「早速やろう! 誰からだ?」
「僕!」
 と飛び出したのは、ラウフ! 白い円の中心を向いて、向かい合う。
「白い円から出たら負けな!」
 リーフが言う。ラウフがこくっと頷いたのを見て、僕がカウントダウン!
「五、四、三、二、一、始め!」
 それと同時に、ラウフは飛び出した。右足を突き出して、キックを入れるつもりだ!
 けれどリーフは、それをスラリと避けて、右足を突き出した!
 おなかに直撃しそうなその足を、「うわあっ!」と声をあげ、ラウフは身をひねってかろうじて避けた!
「うおおっ!」
 観客の僕とルルは、思わず歓声をあげた。拍手。
 すとん、と着地したラウフとリーフは、再び突撃!
 でも、ラウフが突き出したのは、足じゃなくて頭だった! ラウフの頭、石頭なんだよ! 前に頭と頭がぶつかったけど、もう、ジンジンして痛いことったらない!
 そのラウフ自慢石頭をリーフはおなかに受けて、「うっ」と声をあげた。僕とルルも思わず「うっ」。
 けれど、リーフは持ちこたえた!
「うおおっ!」
 僕とルルは再び拍手を送った。リーフは苦虫を噛み潰したような顔で、ラウフをにらんだ……! ラウフはたじっ、と後ずさる。そのたじろぎが、命取りになった!
 怯えたラウフは、突っ込んできたリーフに反応できなかった。だから……分かるよね?
 そう、リーフのパンチ・キックのラッシュをモロに受けて、場外へ吹っ飛んだ!
 地面にどすっと打ち付けられたラウフは、カハッと息を吐いて、ぐったり。
「……しょ、勝者リーフ!」
 僕は慌てて言った。ラウフとリーフの攻防に呆然としてて、すっかり審判を忘れてた!
「うううっ」
 悔しそうに唸りながら、ラウフは身を起こす。
「お前、たいしたもんだな。キルルさんに、レナル君だっけ? 期待を裏切るなよ」
 っていうリーフの言葉は、ほめ言葉らしい。
「じゃあ、次は僕!」
 僕はそう言って、リーフの前に飛び出した!
「おっしゃ、来い!」
 ダメージを受けているはずなのに……リーフはけっこう元気そうだ。スゴイ。
「五、四、三、二、一、始め!」
 ラウフのように、ルルが叫ぶと同時に、僕は飛び出した! 頭突きを入れる!
 リーフはそれを予想していたように、ひょいっと避けた。ラウフの時のを教訓にしたんだ。
 でもね……。
 そんなの、僕だってお見通し! くるっと体をひねって、長い尾をリーフに叩きつけた!
「うわっ」
 リーフは避けようとしたけれど、僕はもう相当リーフに近いところにいたから、尻尾がリーフに届くのに、時間はあまりかからなかった。だから、リーフの足に当たって、リーフはもんどりうって転がった!
 けれど、白い円のぎりぎり内側で止まった。む、もうちょっとだったのに!
「破ァァァ〜〜〜〜〜!!」
 起き上がったリーフが気合いをためる! まずい! 大技が来そう!
 僕は地面を蹴った。リーフとの距離を縮め、技が発動する前に攻撃を仕掛け、円の外に出すため。
 だけどリーフはその前に、技を放った! 近付いた僕を利用して、至近距離からパンチを放った!
 ごっ、と鈍い衝撃が、僕の体をはしりぬけた。はっと気付くと、僕は地面に転がっていた。
 急いで起き上がると、そこは円の外。
「勝者、リーフ!」
 ルルが宣言し、円の中に入っていく。
「リーフさん」
「何だい」
「少し休憩なさって下さい。もう、ヘトヘトです」
「……OK」
 リーフは地面に座り込んだ。じっと回復を待っているようだ。その間、ルルは空を見上げて、沈黙している。もうすぐ日が暮れる。何を考えているんだろう。
「……いいよ。始めよう」
 リーフが立ち上がった! ということは……もう回復したんだ。早い!
「五、四、三、二、一、始め!」
 ラウフが叫ぶ。二匹は動かない。
「おい。何してるんだ」
「そっちこそ。攻撃をしてこないんですか?」
 リーフの問いに、挑発するようにルルが答える。ちっ、と舌打ちしたリーフは、ルルに突っ込んだ!
 でも、今までの相手とは違うルルの態度に毒気を抜かれたのか。威力がない、見せ掛けだけのようなパンチだった。
 さっと避けたルルは、右手を上にかかげた! ちらほらと見え始めていた星達が、輝きを増す。
 ふっと見上げたリーフ、やっぱり女の子なんだね、思わず見とれて、
「キレイ……」
 はっと気付いたときにはもう遅い。
「今だ!」
 と叫ぶルル。星たちが、流星群のように降ってくる!
「『スターレイン』!」
 星たちは、リーフに勢いよく降り注いだ! 大量の流星に驚いてか、リーフは動くことも出来ず、直撃を受けた!
「うわあっ!」
 星達が巻き起こす突風に、僕とラウフは顔を覆った……。
 ふっと圧力がおさまって、顔を上げた僕らの眼に飛び込んできたのは、立ち尽くすルルと、地面に倒れて動かないリーフの姿だった。
 審判役のラウフも、口を利けずに立ち尽くす。
「…………」
 僕らを静寂が包む。夜空には、普段と同じ、星の輝きが戻っていた。
 その時、かくっとルルの膝が折れて、彼女は地面に倒れ込んだ!
「わっ、ルル!?」
 駆け寄る僕ら。ルルはハアハアと荒い息で、
「ふふっ……ちょっと疲れちゃって……」
 そして、目を閉じる。
「うわあー!? ルル――!?」

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