第T部@
☆ 7.海の王・ウォーター
ブクブクブク……。
僕らは、今、南中央海の中に居る。離れてもお互いの顔が見えるくらい、水は透明だった!
海底は、珊瑚礁がいっぱい!
「うわあ――!」
僕ら、思わず感嘆の声をあげちゃった。
「……あれ?」
ルルが何かに気付いた!
「あれ、……何だろう?」
「ん?」
其処は、砂が敷いてあった。海岸の砂浜のと同じ、白い砂だ。だけど、おかしい……おかしいのは、砂の敷き方。珊瑚礁が円状に削れて、其の中にあったんだ! しかも、
「なんか、ドームみたいだね」
そう、ラウフが言った通り、謎の膜が、其の円状の砂浜を、ドームみたいに囲んでいたんだ!
「行ってみましょ!」
ルルが言った。僕らは其の謎ドームに向かって泳いだ。
ぶにゅっ、というか、ぼわん、というか……兎に角、そんな感触があって、僕らはドームの中に侵入した! そこでは、
「息が出来る!」
地上みたいに、普通に息が出来たんだ!
「不思議……」
「すごーい……」
「綺麗……」
ほわ〜、と僕らが見とれていると、
「あら、キルルさんにレナルさん、それにラウフさんではありませんか!」
背後から声が!
僕らがさっと振り向くと、すーっ、とこちらに泳いでくる姿があった! ピンと立った耳、オレンジ色の体、琥珀の瞳……
「サンダー!」
そう、彼女は、雷雲の上で出会った、サンダーだったんだ!
「お久しぶりですわ」
サンダーは、すたっと砂の上に降り立った。
「サンダー、どうして此処に?」
「いつもは雷雲の上に居るって、言ってませんでしたか?」
「言いましたわよ」
サンダー、くすっと笑う。
「其れは、普段のこと。今日は、用事があって此処に来ているのですよ」
「用事……?」
何だろう? さっぱり思いつかないよ。
と其の時!
「其のヒト達は、サンダー?」
もう一匹のサンダーが! ……いや、違った。似てるけど、毛並みはグレー、瞳は青だ!
サンダーが答えた。
「キルルさんにレナルさん、ラウフさんですわ、ウォーターさん」
え? “ウォーター”?
「えっ、てことは……」
「そうか。自己紹介してなかったな。オレは、此の南中央海の王、ウォーターだ。ヨロシク!」
グレーのサンダーは、ウォーターだったのか!
「此の、黄色いのがレナル、白いのがキルル、緑のがラウフだな」
ウォーターは、一匹一匹指差しながら当てていった。
「はい」
「そうです」
「何で分かるの?」
ラウフの問いに、ウォーターはハハハ、と笑った!
「簡単だよ。サンダーから、お前達のことは毎日のように聞いてるからな!」
「あの……」
ルルが、おずおずと口を開いた。
「あの、ウォーターとサンダーは、どういうご関係で……?」
「ああ、それは」
ウォーターとサンダー、顔を見合わせてにっこり。答えたのは、サンダー。
「私達、実は許婚ですの、幼い頃からの」
許婚ってことは……
「婚約者!?」
「はい」
「おう」
二匹は、幸せそうに微笑んだ。エ―――――ッッッ!? って、僕ら、声をあげそうになっちゃった。だって、だってサンダーの丁寧なしゃべり方、ウォーターの荒々しいしゃべり方、全然違う、正反対なんだもん!
「兎に角、何か、訊きたいことがあれば、遠慮なく訊いてくれ。分かることだけ、教えてやろう」
それはやっぱり……
「あの、此処のドームみたいな膜は、何なんですか?」
ルルが訊いた。
「あ、此れですか?」
サンダーが見上げ、ウォーターを向いた。
「此の膜のことは、オレにも分からない。ただ、オレが海の王に任命されて初めての見回りの時にはもう在ったから、先代かもっと前の王が作ったんじゃないか? 他には?」
「特にないです」
僕が答えた。
「そうか」
ふむ、とウォーターは思案する。
「ゆっくりしていきな、って言いたいところなんだけど、オレ達、見回りの時間なんだよ」
「そうですか……」
しゅん、とうなだれる僕ら。此の不思議なカップルと、もっと話していきたかったな。
「お前らも早く帰んねえと、親が心配……!」
ウォーターが突然言葉を切った! 何かに気付いたみたい。
「どうしたの?」
「そうだ! すっかり忘れてたよ!」
「何がですか?」
ウォーターは顔をキラキラと輝かせながら言ったんだ!
「今は『皆の夏季休暇』だ! だから、いくらでも居て大丈夫だ!」
そして、とっても魅力的な提案をした!
「そうだい? 一緒に見回りしねえか? 海の中は面白いぞお〜」
僕らは顔を見合わせた。そして、モチロン、
「ウン!」
と大きく頷いた!
「おっしゃ、乗った!」
ウォーターも乗り気!
「ルルさん達さえよろしければ……」
と控えめな発言をするサンダーも、実は結構嬉しそうだった。
海の見回りって、とっても楽しいものなんだ! 珊瑚礁の中に隠れてる魚さん達を覗き込むと、彼らはびくっと驚きながら、ぴゅーって逃げちゃうんだ。其の仕草が、可愛いんだ!
運が悪いと、サメとか凶暴なモンスターに襲われるらしいけど、――よかった。今回は、危ないことは何もなかったよ。
ウォーターの豪華な屋敷(海中にあるんだ。すごいでしょ!)に一泊させてもらって、海の見回りとかにつき合わさせてもらった。とっても楽しい二日間を過ごして、そろそろ出発の時間。
「本当に、もう行ってしまうのですか?」
サンダーは残念そう。
「はい。行きます」
でも、ルルはきっぱり答えた。
「また会えるかなあ」
「会えるよ。そりゃもう、絶対に!」
不安げなラウフを元気付けるように、僕は言った。けど……
実は僕も、結構寂しい。また会えるかどうかなんて分からないし、此の二日間は、ものすごく楽しかったから。あと、二人の行く末も気になるし。
だけど、そんな弱気な心ははねのけて!
「行こう! だらだら延ばしてる暇なんてないよ!」
「そうね! 行きましょ!」
「気をつけてな。何時でもまた遊びに来いよ」
ウォーターも少し、寂しそう。
「出発だ!」
ラウフが叫び、ソレを合図にしたみたいに砂を蹴り、僕らが出会ったあの膜から飛び出した!
「気をつけろよな!」
「リーフさんに、どうかよろしくお伝え下さい!」
僕らは其れに、手を振って答えた。揺らめく水面が近付いてくる……。
「プハアッ!」
ジャバッと水面に顔を出した。南中央海岸だ!
「着いた! 着いたよ!」
「うおお、久しぶりの陸地だ!」
誰からともなく砂浜にあがる。不思議なことに、僕らの体は全然濡れてなかったんだ!
「不思議ね……別世界から帰ってきたみたいな気分……」
ルルが呆然と呟いた。
「実際、そうだったのかもしれないね」
僕はルルにそう言って、歩き出した。
「次はっ! ――っ山だあ――ッッ!」
ラウフが張り切って、
「お――っ!」
こぶしを突き上げた其の時、
僕の背後に、何者かの視線と気配を感じたんだ!
眼の端で、其の動きを追ってみる。そいつは僕に気付かれたのに気付くと、海へ向かって歩いていき、僕が改めて振り返って見た時にはもう海中に身をひそめていた。背丈は僕らと同じぐらい。敵意は感じなかった。でも、初めて見る種族だ。
あのコはいったい、誰だったんだろう。
僕は、不思議でしょうがなかった。
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