第T部@
☆ 6.皆の夏季休暇
夜の水浴びの時、僕はワクワクしてた。どうしてかって?
実は、明日――八の月一の日――から、夏季休暇なんだ! 此の夏季休暇は、通称『皆の夏季休暇』で、大人も子供も関係なく、み〜んな休みの日なんだ! 学所の夏季休暇は皆の夏季休暇よるも長くて、子供だけだけどね。ちなみに、こっちの通称は『夏休み』。
皆の夏季休暇は、八の月一の日から七の日までの七日間。此の間は、誰でも例外なく仕事がなく、休みなんだ! むしろ、仕事をしちゃいけない。ただ、食事は自分で探すこと。っていう決まりがあって、其れが大変なんだけどね!
僕とルルは、其の皆の夏季休暇の間、海と、山に行くんだ! 目的は、もちろん! しゃべる生き物探し! あ、ラウフも一緒にね。
海にはウォーター、山にはリーフがいるんだろうなあ……。
僕、お湯の中でにんまり。
水浴びを終えて、寝床に入っても、興奮して眠れない。だから、眠り薬を飲まなくちゃ、――危なかったよ、寝不足で……。
次の日は、朝ごはんをい〜っぱい食べて、
「――行ってきまーす!」
元気に家を飛び出した!
集合場所は、もちろん、秘密基地。其処にはもう、二匹とも来てた。まだ七時半なのに。早いなあ。
「さて」
「行きますか!」
「せーのっ、しゅっぱ――つッッ!!」
右のこぶしを上に突き出して、威勢よく歩き出した!
「ねえねえ」
僕は道々二匹に話しかけた。
「何?」
「海じゃウォーターで、山じゃリーフに会えるんじゃない?」
「そりゃそうだよ! うい…ウィンドの手紙に書いてあったじゃん! ウォーターは雄でグレーのネコで海に居ると、リーフは雌で茶色のイヌで山に居るって!」
ラウフに言われてしまった。恥ずかしくなって、僕は話題を変えた。
「それよりさー、海と山、どっち先に行く?」
「レナルが言ったんじゃないか」
ラウフがぼそっと呟くと、
「いいからいいから」
ルルがなだめて、
「ぶー」
ラウフは膨れた。そうとう僕をからかいたかったんだな。……何でだろう?
「で、どうする?」
訊き直すと、
「海!」
ラウフが即答!
「何故?」
ルルが訊くと、
「う〜ん……適当!」
おいっ! そりゃないだろっ! ……まあ、他に意見もないし……
「じゃ、海でいっかあ」
「それで決定ね」
「うおッッ――しゃあ!」
ラウフ、ガッツポーズ。おいおい……。
とゆーわけで、僕らは海に行くことになった。
「一番近い海って何処の海かな?」
ラウフが首を傾げると、ルルが答えた。
「そうね……中央市から近いのは……海の町。走ればすぐよ!」
海の町……。
「海の町は小さい町だけど、其処の海は、美しいということで有名よ。海は観光スポットにもなってるらしいけど、普段は簡単には入れないの」
「どうして?」
ラウフが訊いた。当然の疑問だね。
「海を汚す人が居るからよ。でも、今は皆の夏季休暇。働いて、見張ってる人なんて居ないわ。大丈夫よ。入れるわ」
「でも……」
ラウフ、まだ心配そう。僕は元気付けた。
「大丈夫だよ。僕らは、海を汚すために入るわけじゃないんだから」
「そうそう。ウォーターを探すためなのだもの」
「……」
ラウフはしばらく黙って考えていたけど、顔を上げると、
「うん!」
輝くような笑顔で頷いた。此れで、準備オッケーだね!
「よーし」
ラウフが意気込んだ。僕とルルもスタートダッシュの用意!
「よーい、スタート!」
三十分もぶっ続けで走りとおしただろうか……。
小さな海辺の町、海の町、南中央海岸に到着!
「うわ〜」
其処は、ルルの言うとおり、すっごくキレイなところだった!
海底が透き通って見えるくらい透明な、青い海水。太陽光を反射して、キラキラと輝く白い砂浜。ゴミなんかは一つも浮いてたり、落ちてたりしない。
まさに、この世のパラダイス!
「綺麗……」
ルルが見とれて呟く。女の子だもんね、ルルも。
「すっごーい! びゅーてぃほー!」
ラウフもはしゃぐ。……『びゅーてぃほー』って……『ビューティフル』? ま、いっか。
ハッ! もしかして……
「ねえねえ!」
ルル! ラウフ!
「?」
「どうしたの、レナル?」
「あのね、あのね」
僕は思い付きを二匹に話した。
「!」
「どうどう?」
「……いいかも」
ルルが言った。
「そうよ! さすがレナル!」
「えへへ」
僕、照れ笑い。
「じゃあさっそくやるか!」
ラウフの号令!
「おう!」
僕の思い付きっていうのはね、ソイルのこと。ちょっとだけ、時間を巻き戻してみよう! すると……?
「あのね。ファイアが言ってたじゃん。『穴掘りの苦手な僕は、十四の日かけて穴を掘り』って」
「あ」
ルルもはっとした。でもラウフはいまひとつ分からないという顔で、
「何々〜? 僕、全ッ然分かんないよ!」
手足をじたばた。僕は、のみこみの悪いラウフに説明。
「だから、僕らも穴を掘って探そうよ。ファイアは『何処』とまでは言わなかったけれど、穴を掘るといえば……」
「!」
ようやくラウフもピンと来たようだ。
というわけです。書かなかった部分には、こういう出来事があったのです。そして、僕らがやってることといえば……!!
――そう。“穴掘り!”
……でもね。
「はあっ。もーダメー」
最初にギブアップしたのは、ラウフ。
「私もー」
「僕も」
続いて、ルル、僕とダウン。
もう、一の時(此の場合は一時間)ぐらい掘り続けたけれど、――駄目。ソイルは、全然現れない。汗がダクダクだー!
「もーう、本当にソイルなんているのかー?」
僕が弱音を吐いて投げ出そうとした時、
「あきらめないで!」
と言うのは、最初にギブしたラウフ。
「レナルらしくないよ! ソイルが見つからない……だったら、先に、ウォーターを探せばいいじゃん!」
そうか!
「さすがラウフ!頭いい!」
ルルが言うと、
「えへへー」
ラウフ、でへでへと照れ笑い。
「よし!」
僕、元気を取り戻して!
「今度は――海へ!」
「おう!」
太陽光に熱せられた熱い白い砂が、きゅっきゅっきゅっ、しゃくしゃくしゃく、と音をたてる。僕らは、冷たい海に向かって、走る走る!
海から、風が吹いてくる。ちょっと塩っ辛いけど、僕らを迎える優しい風。僕らを、優しく包み込んでいく。
底が見える透明な青い海。僕らは其処へ、飛び込んだ!
――バッッッ、シャ―――――ン!!
南中央海へもぐった僕ら。ウォーターって、どんなヒトだろう……。
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