スラッシュ☆モンスター
第T部@

・☆ 5.ファイアは何処にいる!?

顔面に風が吹き付けてくる。僕は目を細めた。地上はまだ遠い。
 後ろを見ると、ラウフが「うわああ〜」って言ってそうな(風のせいで聞こえないんだ)口の形でくるくる回りながら落ちてきた。ふふふっ、けっこう面白いよ。泣きそうなんだもん。
 ちなみにルルは、自慢の長い耳を活用。横にばっと広げて、パラシュート風にしてる。さすが!
 さすが! って、何回言ったかな……?
 ま、それは置いといて。
「見て!」
 ルルが叫びながら、地上を指差した! 僕とラウフはそちらを見た。ん? 何か赤いものが……
 あっ!
「炎か!」
「正解」
 僕が叫ぶと、ルルは満足そうに頷いた。
「ラウフ〜落ち着け〜」
「こ〜わ〜い〜」
 相変わらず、ラウフはじたばたと回っている。今日は、ラウフにとっては最悪の日だね。残念でしたー。

 

 ルルが地面におりたった。続いて僕。ラウフは……かわいそうに、べちゃっと着地失敗。体中をしたたかに打ちつけたらしい。でも、すぐに立ち上がる。エライ。
 顔を上げて、
「ふああ〜!」
 僕ら、思わず感嘆の声をあげちゃった。
 だって、目の前に、自分より二倍三倍もの高さの炎が燃えていたら、誰だって驚くよね!
「此れがファイアの……炎……」
 赤々と燃える炎から、火の粉がぱちぱちとはぜている。赤く、明るい其の炎は、何処かに情熱をもってるような強さがある。
 でも、肝心のファイアがいないんだ。炎の周りを五周したけど、見つからない。
「いないね……」
 ラウフが残念そうに溜め息をつく。
「また明日、来るしかないかな……」
 僕もはあと溜め息をつき、僕らは其処をあとにした。
 明日になるのか……。嫌なわけじゃないよ。ただ、あれだけ張り切ったのに会えないなんて、残念なだけ。

 

 あの日から、七日ぐらい『ファイアの炎』(ラウフが付けた名前。いいでしょー)に通ったけれど、結局ファイア自身には会えなかったんだ。
 他の三匹を探そう。そう、あきらめかけたときだった!
「レナル!」
 昼過ぎ、ショル族α氏の住まい、つまり僕んちに、ルルが飛び込んできたんだ! それも、すごく慌てて。
「大変! レナル!」
「どうしたの、ルル!?」
「あ、あのね、は、はあ……」
 ルルは息を整えて、一気に言った!
「……ファイアが、訪ねてきたの!」
「!」
 ファイアが!? 驚きで、声も出ないよ。
「私のうちに……絶対ファイアよ。間違いないわ。ほら見て!」
 ルルはウィンドからの手紙を突きつけた。
「ファイア、雄、グレーのイヌ。雄だし、グレーの毛並みよ! 此の特徴とピッタリ!」
 ファイアが訪ねてきたことと、ルルがこんなに興奮していることに、僕は驚いた! のどの奥からゆっくり声を絞り出して、
「ホントに? ホントに、ファイアなの?」
「だから、そうって言ってるじゃない!」
 僕は力が抜けて、思わずしりもちをついちゃった。すごい。ファイアが、訪ねてきた!
 よいしょっ、となんとか立ち上がって、僕は言った。
「よし……ラウフに、連絡だ!」

 

 ラウフと共に、走る走る!
 ルルの家にやってきたファイア。ルルは其処に戻り、相手をしていてくれている。
 そして僕は、ラウフに其れを伝え、つれてくる役目をになっているんだ!
「此処!」
 僕らはチョル族α氏の住処に飛び込んだ!
「おはようございます、マンスさん、イムリさん!」
「おはよう」
 ちなみに、マンスさんはルルの父親、イムリさんは母親なんだ!
 僕ら、ルルの部屋へ直行!
「ルル! つれてきたよ!」
 ファイアは、冷たい土の上に正座してた。顔をうつむけて、じっと、静かに。
「こんにちは。僕、ショル族α氏のレナルと申します」
「僕はムチ族β氏のラウフと申します」
 僕らはぴょこんと挨拶して、床に座った。
「ファイアさん、どのようなご用件で?」
 ルルが落ち着いて訊いた。……だけど、
「あの……えっと……その……」
 ファイア、もじもじ。そしてだんまり。
「すっとこのカンジ」
 ルルも、おてあげ、と肩をすくめる。はあ、ファイア、用があるなら早くして……。
 其の時!
「……今まで…」
 ファイアが口を開いた!
「?」
「会えなくて、すみませんと……」
「なあんだそんな……むぐ」
 言いかけるラウフの口を、僕とルルで押さえた。きっと失礼なことを口走ろうとしたんだ。だって、『なあんだ』なんていう言葉から連想するのは嫌な言葉ばかりでしょ?
「何故、いつもいなかったのか……さしつかえなければ、理由をお聞かせくださいませんか?」
 ルルが訊くと、ファイアは、
「それは……それは……」
 また口をつぐんじゃった。もうっ、ラウフのせいだからっ! ……かな……?
「ファイア……」
「…………に………」
「ファイア?」
「……好きなコにっ……好きなコに、会いに行ってたんだあ――!」
 ファイアが突然大声を出して、僕らびっくり仰天。飛び上がっちゃった。
「は!?」
「な、何?」
「す、好きなコ――ッッ!?」
「好きなコに、会いに行ってたんだ、僕」
 うっとりと、ファイアが両手を組んだ。何なんだこいつ。
「それは……誰ですか?」
「ソイルちゃんだよ。あのコ、いっつも土の中にいるから、探すのが大変だったよ。穴掘りの苦手な僕は、十四の日かけて穴を掘り、さらに七の日かけてソイルちゃんを探し出したんだ! すごいロマンティックな話でしょ!」
 ファイアは、ロマンティックの“ティ”を強調した。ロマンティック、ねえ……。あえてロマンチックをロマンティックにしたのかどうかは分からないけど、ファイアはものすごく燃えるような恋をしてるんだなあ……。感心するけど、その熱っぷりは、聞いてるほうが疲れてきちゃうよ。
 ところで……
「それで?」
「僕がソイルちゃんに『付き合ってください』ってた……」
「いや、そうじゃなくて……」
 ああ、こいつはソイルちゃんバカだ。僕は、あきれ果てて声も出ないよ。
「だから何で今日此処に……」
「あ!!」
 ファイアが突然大声を出した!
「もうこんな時間!?」
「こんな時間って……」
 まだ二のときにもなってないよ!
「だけど、ソイルちゃんに会いに行くの!」
 両手を握って、ゴリ押し。
「じゃあねっ! ――バイバイ!」
 そして、さっさとチョル族α氏の住居を飛び出していってしまった!
「行っちゃったね……」
「そうだね……」
 僕ら、其れを見送ることしかできなかった。
 そのままポカーンと、口を開けて突っ立っていたのであった。

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