スラッシュ☆モンスター
第T部@

・☆ 4.ネコの海とサンダー

 皆は知ってるか分からないけど、僕らモンスターは、運動神経が非常に優れている。だから、一メートルも二メートルも、跳躍するのは簡単なんだ。
 だから僕らは、雷雲に向かって思いっきりジャンプ!
 上に行くほど、地上が離れていく気配をはっきりと感じる。僕の上をルルが、下をラウフが行く。僕らはまだ落ちずに飛び続けた。
 やがて、僕らは平べったい雲の上に到着した。前足をかけて飛び乗ると、ルルがハアハアと息を切らして待っていた。ハアハア。僕の息もあがっている。
「うわああ〜〜!」
 背後で聞こえた悲鳴に、僕とルルははっとして振り返った。黄緑色の小さな手が、雲の端に引っかかっている……
 ラウフだ!
「ら、ラウフ!」
 僕らは慌てて駆け寄った。ラウフは片手で雲にぶら下がっている。泣きそうな顔で、じたばたと暴れている。
「たっ、助けてえ――!
「ラウフ! 落ち着いて!」
「暴れたら落ちるって!」
 ウンウン唸りながら、やっとのことで僕らはラウフを雲の上に引き上げた。ラウフはとっぷりと重たかった。
「はあ、はあ……」
「はあ、はあ……ラウフ、はあ、だいじょぶ?」
「……こ……恐かったー!!」
 ラウフはそう大声で叫ぶと、ふっとおとなしくなって、呆然と呟いた。
「ココが……雲の上?」
 それ以外、考えられん。僕らは雷雲の上に向かって、飛んできたんだから。
 その時!
 にゃおー――にゃおー――
 ネコの鳴き声が! 振り返ってみると、
「うわ……」
 すごい人数の、ネコの海だった! にゃおーにゃおーと鳴いている。
「すご……」
「マジ……?」
 ラウフがショックを受けたような顔をした。それくらい、すごいんだよ!
「どなたですか?」
 澄んだ声が響き渡った。はっとした僕達は、声の主を探した。彼女は海の中から進み出てくれた。
 琥珀色の瞳に、オレンジのしま模様の体……
 ――サンダー  雌  オレンジのネコ 雷――
 ハッ!!
「もしかしてっ!?」
わたくしは、サンダー」
 彼女――サンダーさんは、軽く礼をした。
 ん? “わたくし”? ……サンダーさんは、礼儀正しいヒトなんだな。
「僕は、ショル族α氏のレナルです!」
「私は、チョル族α氏のキルルといいます」
「僕、ムチ族の、β氏の、らうふ、ですっ!」
「ようこそ、我が楽園へ。こちらへどうぞ」
 サンダーさんが言ったとたん、一本道がネコの間にできた。サンダーさんが言って即刻、ネコ達が動いたんだよ!
 僕らは其の一本道を歩いて、サンダーさんについていった。

 

 僕らはサンダーさんに案内されて、静かなところに来た。
「貴方がたは……何故なぜ此処に?」
 サンダーさんは、ちょこんと首を傾げた。でも反対に、ルルは訊いた。
「ウィンドを知っていますか?」
 サンダーさんは、コクッと頷いた!
「はい、知っていますわ」
「彼に、聞いたんです。『僕みたいに、しゃべる謎の生き物が、あと五匹こちらに来てるはず』って」
「まあ」
 サンダーさんは手を口もとに持っていき、クスクスと笑った。
「私わたくしは、此処雷雲の上で普段暮らしています。時々、地上にもおりますわ。何か、――しゃべる生き物について――訊きたいことがあったら、今此の場で、知っているだけお答えしますわ」
「どうする?」
 訊きたいこと。しゃべる生き物についてだよね? う〜ん。
「しゃべる生き物じゃ長くて大変だから、何かグループみたいに、名前を付けたいなあ……なんて……。……名前、付いてます?」
 僕が訊くと、サンダーさんは即答!
「いいえ、ありません」
「じゃあ、今決めちゃおうよ」
 ラウフが張り切るけれど、
「皆見つかってからのほうがいいんじゃない?」
 ルルに却下された。ははは、お気の毒です……。
「サンダーさん、まだ見つかっていないのは、」
 ルルが言いながら、ウィンドからの手紙を取り出す。
「え〜っと、」
「ソイル、ウォーター、ファイア、リーフだよっ!」
 ラウフが横入り。さっきの汚名返上か?
「このよ……」
「そう、その四匹なんですけど」
 しか〜しルルは、サラリと無視して、ラウフが次の言葉を言い切る前に、むしろ利用して言葉を引き継いでしまった! さすが!
「何か情報があったら提供していただきたいんですけど」
「そうですね……」
 サンダーさん、しばしの思考。
「これくらいの時間ならば……きっとちょうど真下に、ファイアがいると思います」
 むっ! これは、とても重要な手がかりだ! 僕らは頭を下げた。
「ありがとう、ございますっ!」
「いいえ」
 横に首を振り、サンダーさんは続ける。
「この下です。ファイアは、火をたいているはずです。さあ」
「ハイッ!」
 僕らは雲のふちに立った。誰もしゃべらない。足の下から、ごろごろと唸るような音が聞こえてきた。雷かなあ?
「よし」
「行こう!」
 僕らは振り返る。サンダーさんは、右手を挙げたところだった。
「ありがとうございました!
「よかったら、再びどうぞ……」
 僕らは飛びおりた。サンダーさんの声が、風に吹かれて消えていった……。

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