第T部@
☆ 1.プロローグ
七の月十五の日――
「おっはよー!」
よく晴れた朝だった。僕は前方を歩く影に声をかけた。
僕は、ショルのレナル。ショル族α氏のレナル。生まれてから、八と五つの年月を過ごしてきた。中等学所三年生!
「おはよう、レナル」
振り返って、穏やかに答えたのは、僕の親友、チョルのキルル。チョル族α氏のキルル。僕より一つ年上で、過ごした年月は九と三つ。中等学所四年生!ニックネームはルル。
おっと、そうだ。人間界の皆に、僕たちの世界の常識を、教えてあげなくちゃね。
まず最初に出てきた、“八と五つの年月”っていうのについて。これは、先にきた数字、この場合では“八”が年、後の数(この場合は“五つ”)が月を表す。つまり、八年五ヶ月となる。
中等学所っていうのは、人間のいう学校のこと。三の年を過ごしたら、下等学所に入所する。六の年で中等学所、十二で上等学所!それ以上は、それぞれの所長(学校の場合は校長っていうよね)が学問庁(僕たちの世界で、学問について研究してるところ)に届け出れば、勝手に名前をつけられるそうだ。
中等学所では、一の年が三つに分かれている。第一期、第二期、第三期。今日は第一期終了の日!つまり、明日からは夏季休暇!
そう。僕たちは、僕たちが所属している中央中等学所に向かっているんだ。
中央中学では、庭で第一期終了の儀をとり行う。僕らを待ち受けているのは、年とった所長プラス担任の、くどくどとムダに長い話と、大量の宿題。うあー!いやになっちゃう!
でも、僕らはそれを耐え抜かなければならない。上等学所出所(つまり卒業)の日、自由の日まで、耐え抜かねばならないのだあ!
……なーんてね、ちょっとかっこつけて言ってみました。あはは。
「何ぶつぶついってるの? レナル?」
ハッ!
僕は我に返った。ルルが僕を覗き込んでる。
「あっ、あははっ!ゴメンゴメン。ボーっとしてた」
ルルは納得のいかないような表情だったけど、
「まあ、いいや」
ふいっ、と再び前を向いて歩き出した。ごまかせたみたい。ホッ。
こんな感じの僕達。君は、分かってくれたかな?
教師の長い長い話を耐え抜いた僕ら(僕だけかな?)は、次の日秘密基地に集まった。探検の格好で、ね。
実は、僕達、山に探検に行くんだ!
「ワクワクするね」
ルルが興奮しきった顔で言った。
「さて、そろそろ出発する?」
僕が訊くと、
「そうだね」
ルルもうんっ、と頷いた。よし、
「レッツ・ゴー!」
こぶしを握り締め、力強く上に突き出した、その瞬間!
「――――ちょおっと、待ったあー!」
「うわっ!」
「きゃっ!」
僕達、思わず悲鳴をあげちゃった。
現れたのは、僕より二つの月だけ年下の、ムチのラウフ。ムチ族β氏のラウフ。八と三つの年月を過ごした。中等学所二年生!
ラウフはにやりと不気味に笑って、言った。
「二人とも、山に行くんでしょ?僕も行く!」
「えっ」
む、困った。ラウフはむこうみずだ。僕たちが行くのは、皆立ち入らない、危険な山なんだぞ!どんな危険が待ち受けているのか、全く分からないのに……って、自分で言うか?ふつー。
ま、それは置いといて。
「ねっ? いいでしょ、いいでしょー?」
ラウフがねだってくる。僕とルルは顔を見合わせた。
「ま、いいんじゃない?」
ルルもお手上げ状態だ。
「〜〜しょうがないなあ。いいよ」
「うおっしゃあ!」
ラウフがこぶしを振って喜んだ。はあ、疲れる。
僕らは山へ向かって出発した。今度こそ。
どんな事件が待ち受けているのか……。
ぶるるっ。あ、これ、武者震いだよ。
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