壱章 アッテラ 16
面白がっているのだろうなと、ユファランタの様子にキリアニルタはそれだけ思った。
カナルナータ、ユファランタ、キリアニルタの三兄弟のうち、最もポーカーフェイスなのがユファランタである。そもそも魔術に魅入られるような性質のユファランタと、その方面に全く縁のないキリアニルタ、加えカナルナータでは、思考の方向、感情の振れ方も大いに異なる。そのためキリアニルタは、ユファランタの不可解な言動について深く考えることを止めることにしていた。如何に弟であるキリアニルタといえど、兄の考えていることには想像が及ばない。今回も、面白がっているのは表情から分かるのだが、何を面白く思っているのかは、正直さっぱり分からなかった。
ちなみに、最も内面が表情に出やすいのは、言うまでも無くカナルナータである。
正直なところ、キリアニルタは少々落胆していた。
病弱だというこの少女に、かの少女を重ねて思っていたことも事実であり、全く違った色合いに僅かな希望は打ち消された。しかし、この少女が彼女であるなどほとんどありえなかったし、その点はキリアニルタも己に言い聞かせていた。
そこでユファランタに意識を向ける余裕ができたのだが、彼は彼で自分の世界に没頭しているようだった。自然の摂理として理解できるはずのない兄の様子など見ていても、なんら面白みも利益も得ることはできない。そこでキリアニルタは視線をこの部屋唯一の少女へ移した。
仕組みは全く不明だが、キャロンシーナに反応して宙に浮くその鳥と、同じ色の緑の瞳。無論、キャロンシーナが鳥にではなく、鳥がキャロンシーナに似て、もしくは似せられているのだろう。その鳥へ伸ばされた細く白い腕。薄皮の下に色付く頬の赤。彼女を彷彿とさせ、しかしそれは彼女のものではない。割り切ったつもりでいてもそれを突きつけられると、違う違うと頭蓋に木霊しているような感覚に襲われる。
何が違うといえば、やはり髪と瞳の色。
キャロンシーナの金髪碧眼