イルスの宿木 1章 6-10


-イルスの宿木- 1章-6

イルス

 イルスの森には、イルスという名の妖精がすんでいました。イルスはももいろのドレスをまとい、虹色の髪と水晶の瞳をもっていました。それはそれはとても美しい妖精でした。
 ある日、イルスの森にひとりのにんげんの男がまよいこんできました。男はたびの途中で、イルスの森で一晩をあかすことにしました。イルスはそれをうけいれました。イルスはにんげんに恋をしました。
 イルスは花の精でした。イルスは男に、美しい花畑をみせてあげたいとおもいました。しかし、季節は冬でした。花をさかせることのできるときではなかったのです。イルスはかなしみました。
 イルスは男のために花をさかせることにきめました。そのためには、イルスはじぶんのいのちをすてなければいけませんでした。イルスは、男のためならなんでもできるとおもいました。
 次の日の朝、イルスは男のまえに姿をあらわしました。いっしょうけんめいおどり、うたいました。男はそれをしんけんにみてくれました。イルスはとてもよろこびました。男もとても喜びました。
 そして、イルスは男に花をさかせましょうと言いました。男はおどろいて、どうするんだとたずねました。イルスは、あなたにわたしのいのちをあげますと言いました。返事をきくことなく、イルスは花の唄をうたいました。とたんに、イルスの森は花にかこまれました。いろとりどりの花々にかこまれました。
 男がそれにみとれているあいだに、イルスのいのちはつきました。男はとてもかなしくなりました。しかしそのとき、男のうでのなかにあった一本のこえだがひかりはじめました。イルスのこえがひびきました。
“ずっとあなたをまもりましょう わたしはここにいます”
 そうしてイルスは、男をまもりつづけました。

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あとがき

こんばんは、井上沙乃莉(sanori0128)です。
はーい色々と意味不明です(笑
サークルパワーが気になって、毎日必死で書いてます。
一番悩んだのは、漢字にするか否かです。
深い意味はありません。感覚で決めました。
やっとイルスの正体が見えてきましたね。これが全部じゃないですよ。
第一、これは童話なので、真実なのかは……。
それではこのへんで。
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-イルスの宿木- 1章-7

「ふーん」
 それを読み切ったフィーチェトーレが、そんな声を漏らす。聴きつけた図書委員が駆け寄ってきて、早速とばかりに感想を訊いてくる。
「どうだった? どうだった? 面白くない?」
「うーん……イルスが何をしたかったんだか」
「えー? そりゃあ、愛する男の人を喜ばせたかったに決まってるじゃない!」
 フィーチェトーレは迷い迷い答えたが、図書委員には否定される。早口で何かをまくし立てたが、フィーチェトーレには聞き取れず軽く聞き流した。やがて、落ち着いたらしく荒い鼻息を吐いた図書委員は、
「ねっ?」
「はあ……」
 同意を求めてくるのだが、聞こうとしていなかったフィーチェトーレが応じることはできず、曖昧な言葉を返した。彼女がさらに続けようとしたところで、ようやく新たな客がやってきたため、じゃあまたね、と言った図書委員はカウンターのほうへと向かっていった。フィーチェトーレは溜め息をついた。静かになり、彼女は再び本へと視線を落とした。
 イルスの物語を読んだフィーチェトーレの感想はといえば、イルスは馬鹿だな、というものだった。何故命を捨ててしまうのだろう? 添い遂げるという道はなかったのか? 所詮は人間と妖精? とりあえず、色々な面で馬鹿らしいと感じていた。
 なのに。
 イルスの姿が、頭から離れなかった。
 光の角度で色を鮮やかに映しゆく長い髪。透き通るような全てを見透かす水晶の瞳。淡い色をした薄布のドレスを身に纏い、宙を舞う姿。その腕には虹色の小枝を抱いて。
 一人の妖精が、脳裏で散った。

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あとがき

こんばんは、井上沙乃莉(sanori0128)です。
図書委員の意外と押し付けがましい性格が出てきました。
そして、フィーチェトーレの感想が。
そろそろイーグを復活させようかと思っています(笑
それではこのへんで。
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-イルスの宿木- 1章-8

「おい! 聞いたか? あの木のこと!」
「ああ、聞いた聞いた」
「何のことだよ?」
「ほらさあ、裏庭に立ってる木があんじゃん、あれ」
「それ聞いた! なんか光ってるんだってな!」
「そうそう。見にいかねえ?」
「おう、それ良いじゃん!」
「行こう行こう!」

 テニカ・アクテール学園の生徒達は、発生したばかりの噂に浮き足立っていた。一本の木が、発光しているというのだ。
 木の生い茂る裏庭に立っているその木には、いわくがある。創始者であるテニカ・アクテールの父親はお守りとしてある枝を所持しており、それをテニカが地面に刺したところみるみるうちに成長し、大木になったというものだ。それが真実であるのか虚偽であるのかは、学園長にも分からないそうだ。
 その木が、光り輝いている。
 それを発見したのは二年生の男子三人で、それは瞬く間に生徒達の間に流れ出していった。発見から十分もたたぬ間に、大部分の生徒の耳に噂は届き、知らない者はほとんどいないほどにまでなった。そして、その光景を一目見ようと、大木の周囲には子供達が殺到していた。
 無論、イグレストやヴェルマスも例外ではなかった。
「よし! イーグ行くぞ!」
「えっ、今混んでるし!」
「おいイーグ、見たくないのか?」
「や、見たいは見たいな。行くか?」
「おっし、一丁上がり!」
 二人は同意し、噂の発生地へと駆け出した。

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あとがき

こんばんは、井上沙乃莉(sanori0128)です。
イーグ復活。ついでにヴェーも。
なんだか連続会話の多い編になってしまいましたが^^;
まあ、今のところこんなもので。
文字数制限に負けたくはないので><
それではこのへんで。
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-イルスの宿木- 1章-9

 大木の周囲にはやはりというかかなりの人数が集まっており、いかに大木といえどもあまり様子は窺えなかった。イグレストとヴェルマスは頷きあい、校舎内へと戻った。こっそりと、急いで階段を上り詰め、屋上へと向かう。いささか肌寒かったが、そこからならば上から大樹を見ることができる。二人は柵から身を乗り出した。
 はたして、大樹は発光していた。
「うえー、すげーな」
 ヴェルマスが目の上で手を翳して言い、その隣のイグレストは、無言で感嘆の吐息を漏らす。一本の木を虹色の光が取り巻いている。噂では木が光っているだったが、実際見てみると、木が光を放っているのか、光が木を覆っているのか判別し難かった。光は見ている間にも次々に色を変え、まるで地上のオーロラの如く人々を魅了していた。
「何が起こったってんだ?」
「分かんないけど……悪戯?」
「おい、それ泣くぜ」
「誰が?」
「俺が」
 ぶっ、とイグレストは噴き出した。つられてヴェルマスも笑い出し、どうして自分で笑うんだとイグレストに突っ込まれる。
「お前が笑い出すからだろ」
「ごめんー」
「や、おい、まじで泣いても良いか?」
「駄ー目」
 一通り笑い、ヴェルマスは再び光る木へと視線をやった。その姿を、一歩離れたところからイグレストは観察してみる。フィーチェトーレほどではないにしろ、長く伸ばした金糸の髪はうなじで一つにくくられ、風になびいている。緑の瞳は、イグレストのものより鮮やかさを持ち、透き通る緑玉のよう。筋肉の程よくついた身体――どちらかというとたくましい。
 と、そこまで考えたところで視線に気付いたらしい、ヴェルマスがイグレストを振り返った。自分をじっと凝視している友人に、ヴェルマスはにやりと笑みを浮かべる。
「なんだあ? 俺に見とれてたとか?」
「んなわけないっしょー。俺男だし」
「いや、だけどそういう趣味の奴もいるし? 実はイーグも? お? え? そうだったのか?」
「ちーがーうって何でそういう発想になるんだよ!」
 イグレストは否定したが、しかしながらヴェルマスに目を向ける女性が多いのも事実である。誰かによると、『あの金の髪とツリ目がそそるの!』だそうだが、生憎イグレストにはその感覚は理解できなかった。


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あとがき

こんばんは、井上沙乃莉(sanori0128)です。
結構調子が良くて書けてます。
やっとこさヴェーの外見描写ができました。ふう。
イーグの眼はちょっと白っぽい。気がします。
ヴェーはきらきらしてるとか(?)
実はイーグの口調を迷っています。もっとワルっぽくするべきか?とか。
ヴェーが結構言葉が悪いところあるので、でも近すぎても……うーん^^;
それではこのへんで。
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-イルスの宿木- 1章-10

「とりあえず、人が凄いよね」
「んだなー。頭使えっての」
 イグレストもヴェルマスも、成績は良い部類に入る。ヴェルマスにおいては才色兼備、とまではいかないかもしれないが、周りも本人も不足はないという評価をしている。イグレストのほうは、ヴェルマスによると「お前も充分美しい」らしいが、なかなかそう見る人間はいない。
「俺達はここでゆっくり見学かあ」
「うおー、特等席!」
「おっしゃあー」
 二人密かに盛り上がる。たとえ大声を出したところで、下の彼らには届かないだろう。それ以前に、物凄い騒ぎなのでたかが二人の声は掻き消されてしまう。イグレストとヴェルマスは、誰にも邪魔されずにその美しい木を見物できる、はずだった。
「イーグ!?」
  ばったあぁぁん
 盛大な音と共に、屋上の扉が開け放たれ、疾風のように少女が駆け抜けてきた。長い桜色の髪を持つ、フィーチェトーレである。イグレストはげっ、といった顔をした。
「フィー! 来るなら授業時間に教室へっ」
「おーおフィーチェ。お前も一緒に見るか?」
「木が光ってるって本当!?」
 二人の言葉に対する返答はせず、フィーチェトーレは単刀直入に訊ねてきた。
「俺の意見は無視?」
「おーう本当だぞ。ほれ」
 ヴェルマスが掌を返し、それを追ったフィーチェトーレが、光る大木を目にする。そしてその瞬間、頬から血の気が引いた。ヴェルマスまでがぎょっとする。
「ふぃ、フィー?」
「どうしたフィーチェ、大丈夫か?」
「…………」
 言葉を発さず、発せず、フィーチェトーレはただ首を横に振った。金色の瞳は呆然と見開かれている。イグレストとヴェルマスはさらに怪訝そうな顔になり、それを見合わせた。フィーチェトーレのこの反応はなんだろう。普段の彼女からは到底考えられない事態であった。
「おいっ、フィーチェ!?」
「何か、心当たりがあるのか?」
「あるんだったら話せよ、聞くから、ってか教えてくれよ!」
「頼むよフィー!」
 フィーチェトーレはヴェルマスを見た。そしてイグレストを見た。蒼白になった唇を震わせて、目には畏れを浮かべて。
「わか、った」


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あとがき

こんばんは、井上沙乃莉(sanori0128)です。
さすがに今日はこのへんで止めますね^^;怖いぐらい進みます。
再びイーグとフィー合流編。ヴェー追加。
力関係はフィー>ヴェー>>>イーグぐらいですが。
ちなみにフィーチェトーレは、
イーグ…フィー
ヴェー…フィーチェ
と呼ばれます。どっちの言葉かはこれで判断できるでしょうか。
それではこのへんで。
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