「ねえフィン。フィンは、どの季節が好き?」
「……ミルは?」
「さあて、ね。どうでしょうか?」
屈託なく笑って、ミルはフィンを見返した。
「どうでしょうか、って……なんだよそれ」
「良いじゃん良いじゃん! さあ、答えてよ、フィン」
「俺は……」
答えられず、フィンは空を仰いだ。
ああ、今日も、よく晴れた空だ。
フィンとミルは、幼馴染み。互いに愛称で呼び合える仲だ。フィンの本名はフィニアス、ミルはミリアム。どちらも14歳。
時々こうやって、町外れの丘に来る。別に、恋人同士というわけではなく、特にそんな感情ももっていない。最初は、フィンが気を抜きにやってきたら、先客としてミルがいた。二回目は、ミルが町を見下ろしにやってきたら、先客としてフィンがいた。しばらくはその繰り返しで、いつの間にか一緒に丘へと通うようになっていた。
好きでも、かといって嫌いというわけでもない関係。
「今日あそこに行かない?」「良いよ」
簡単なやり取りで成立する約束。
週に一度は、行うやり取り。
そしてある日唐突に、ミルがフィンに訊いた。
「フィンは、どの季節が好き?」と。
「俺は、……」
「俺は?」
「……や、別に」
「何よう、はっきりしなさいよ」
「何でもないから」
「フィン〜?」
「何でもないったら」
「質問の答えになってないよ?」
しつこく追求するミルから視線をそらし、空を仰ぐフィンは意地悪な気持ちになって、質問をすり替える。
「だったら、ミルも答えてよ。ミルは、どの季節が好きなのさ?」
「うっ、そ、それは……」
案の定、ミルは言葉に詰まる。先ほどもはぐらかしたのだ、彼女が答えられないと分かっていての問いだった。
「何だって良いじゃないの」
「じゃあ、こっちだって何だって良いだろ」
「あ〜ん、うぅ……」
ミルは悔しそうに歯噛みした。恨めしげにじとっとフィンを見つめてやり、
「じゃあ、私が答えたらフィンも答えてくれるの?」
その状態のまま、訊いてみる。
「良いよ」
そう、軽い気持ちで頷くフィンの耳に、体制は戻したものの不満そうな顔をしたミルの、嬉しそうな声音の言葉が届いた。
「私は、春が好き。暖かくて、嬉しくてあったかい気持ちになるでしょ。小さい花がぽつぽつ咲いてるのとか、綺麗だから。
夏も好き。暑くて、夏が来たなあ、って嬉しくならない? 真っ青な空と濃い緑の山の色の対比が、綺麗だから。
秋も好き。涼しくて、風邪が気持ち良くて、過ごすのに快適でしょ。山の紅葉(もみじ)が赤く、黄色く染まってるのが綺麗だから。
冬も好き。寒くて、それが身にしみて感じると冬だなあ、って思うの。雪も降るから、辺り一面真っ白になって、綺麗だから」
だから、と続けるミルの表情は、いつの間にか静かに輝いていた。
「私は、全部の季節が好き。それで、他の人はどうなのかなって、例えば男の子とかさ。私にははかりしれないもの」
つまり、性が違うと好みも違うのか、と疑問を持っているのだ。それは、フィンも感じたことがある。自分達が盛り上がっていることを女子が笑う。なんでこの良さが分からないんだと、つくづく思う。
それは、女子のほうも同じだったんだと、フィンは初めて気がついた。笑われた不快に思っていたが、自分も女子を笑ったことがある。イケ面アイドルだかなんだかでキャーキャー言って、何なんだと思っていた。だが結局、どっちも同じだったんだ。
「で、一番訊きやすいのがフィンだったの。分かった?」
「ああ」
フィンが頷くと、ミルの頬に笑みが浮かび、つられたようにフィンも笑った。言いたいことを言えたミルは、どことなくすっきりしたような表情で、ふうと息をついた。
「俺も……」
俺も、全部の季節が好きだ。
「そっか」
私も、全部の季節が好き。
「答えてくれて、ありがとね」
「ん、どってことないし」
おっけーおっけー、と手を左右に振るフィン。
「それから……」
「ん?」
「聴いてくれて、ありがとね」
嬉しかった、と笑みを浮かべる。
「お前こそ」
「え?」
「言ってくれて、さんきゅ」
そう言いながらなんとなく気恥ずかしくて、フィンはそっぽを向く。その仕草に、ミルの頬も心なしか紅潮した。ふふ、と満面の笑みで、空を見上げる。
今日も、よく晴れた空だ。
----------あとがき----------
ええと、短編と言えるのでしょうか……?
ここでは初、小説を書かせていただきました。
半分即興、ノリで書きました。
なので、ところどころ繋がりが悪いところがあるとは思いますが、
やわらかい眼で見ていただければ……です。
読んでくださったかた、どうもありがとうございました。
@GAMES