0「貴方が私を殺した。だから、私が貴方を殺す」
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かつて、人間の女に恋をした男神があった。
今では廃れてしまったが、かつては沢山の信仰があり、崇められる数多くの神が存在した。信じる心の途絶えた時、彼らのほとんどは天上へと昇り、ごく少数は地下へ潜ったか、もしくは堕とされた。理由は様々、そんな中でも特に有名で、また軽蔑視されるのがこの話。
美しい人間の女を見初めたのは炎の神。激しい気性の持ち主である彼は、燃え盛る炎の如く女を恋い、女も彼に惹かれた。彼は女へと婚姻を迫った。しかしながら拒否する女を、彼は力でもって己のものとした。
人と神の交わりは、禁忌である。
たとえそれが愛によるものだとしても、認められていなかった。
まして彼は、炎を司るのだ。女は激しい神の炎に内から焼かれ、一夜で命を落とした。男神は他の神々より嫌悪や侮蔑の眼差しと罰を被り、自らの望みもあって地の底へと堕ちた。
愛する男のために死んだ女の情は深く、やがて憎しみへと変わる。女の霊は天へ昇ることも、また地獄へ堕ちることもならず、ただただ男を待ち焦がれた。愛するために、憎むために。
時を経て、とうとう女は男を見つけ出した。
――貴方が私を殺したのですね――
――だから、今度は私が、貴方を殺すわ――
強い呪詛の念を受けた男神は、地の底で生きながらに磔刑となった。
そして、女の魂は報われることなく、今も地獄を彷徨っているという。